+ ロシアB 皆既日食・日食当日編 (2008.08.01)
 8月1日、皆既日食当日を迎える。

 会場入りしてから1週間、見事に晴天の日に恵まれ、ほとんど雲を見ることなく過ごしてきたわけで、天気に
関しては何の心配もしていなかった。

 が、しかし。


 
曇りやん。


 空の半分は雲に覆われ、しかも時間が経過するとともに雲の割合が増えていっている。いつも通りに水汲み
したり泳いだりしていたが、太陽が隠れる時間が長くなってきた。
 これは・・・雨男の本領発揮か?1週間こんだけ晴れておいて当日に限って雲り。これで日食が見れなかったら、
神様が「オマエは日食を見る資格がない」と言っているに違いない。

 日食の時間は夕方5時50分頃。時間が経過するにつれて、あらんかぎりのマイナスイメージが頭の中を駆け
巡る。見かけ上はアントンやクラトさんたちと喋ったりメシを食ったりして平然と過ごしていたが、実は気が気で
なかった。とりあえず頭の中で今まで行ってきた悪行を懺悔して祈ったりしてみる。

 午後4時過ぎ、人々がメインフロアに集まり始める。アントンたちは最初は山に登って見ると言っていたが、
結局キャンプサイト付近で見るらしい。ヤスさんたちとメインフロアへ行き、他の日本人たちと共に空を見上げる。

 ・・・曇っている。



 いやいやいや、本格的にマズイっすよこれは。もうそろそろ太陽が欠け始める頃なんですが。

 DJブースでは、おそらく地元に住んでいるであろうおじさん・おばさんがアルタイの伝統的唱法であるカイ
(ホーミーのようなもの)を奏でている。そして、ロシア語で何ていってるかわからんけど、おそらく「みんなで
天に晴れてくれるよう祈りましょう」とでも言ったんだろう、パーティーピープルたちが手をつなぎ、大きな円に
なって天に向かって祈り始めた。

 すると祈りが通じたのか、太陽が姿を現し始めた!

 歓声が上がる。思わず僕も叫ぶ。今、この場にいる人たちは間違いなく同じフィーリングを共有している!

 そして数分後、一段と大きな歓声が上がる。
 観測用メガネで太陽を見ると、太陽が欠け始めている!



 ついに来た!
 辺りが段々と暗くなり始めた。明け方とも夕暮れとも違う暗さ。今まで見たことが無い世界がそこにあり、その
世界もまた刻々と色を変え続けている。

 だが、太陽が欠けていく間にも雲は刻々とその姿を変え、時に欠けた太陽を覆い隠す。そのたびに悲鳴が
上がり、誰もが太陽の再来を強く祈る。
 僕は日食当日、とある日本のパーティーでもらったかぶりものをしていたのだが、「太陽が隠されるのは、僕の
この
変なかぶりものを見て神様が怒っているに違いない」と思い、かぶりものを取って
土下座した。

 その効果があったのか、雲がスーっと引いていき、再び太陽が姿を現す。もう半分以上欠けている、そして
ちょうど雲が無い位置に太陽が陣取った!

 そして太陽が三日月形になると、残された光が闇に吸収されるようにスーっと消えていき、指輪のように一箇所
だけがキラリと光ったかと思うと、ついにその時がやってきた。


 皆既日食。


 辺りは完全に闇に包まれ、体感温度は完全に下がっている。全身に鳥肌が立つが、これは気温のせいだけで
はないだろう。
 目の前に見えるのは黒い太陽と山とパーティーピープルだけ。体験したことのないことを始めて体験したときの
高揚感、しかも宇宙規模で行われていることへの驚き。この感情をどう表現したらいいか、などと考えることは
できず、ただ叫び、いつの間にか涙を流していた。

 そして皆既日食になってから1分ほど経ってからだろうか、雲が波のように押し寄せてきて、日食中の太陽に
覆いかぶさってきた。思わず上がる悲鳴と「NO!」の声。その声も虚しく、太陽は完全に雲に隠されてしまった。
 雲の向こう側で日食の太陽は怪しく揺らめき、そして突然明らかに今までと違う光りを放ち始める。皆既日食
が終わり、太陽が姿を現し始めたに違いない。
 残念ながら皆既日食の全工程を見ることはできず、その日はもう太陽が姿を現すことはなかった。

 ところが、誰もが2度目のダイヤモンドリングを見れずに残念がっていたかというと、そうでもないと思う。

 僕も最初は思わず悲鳴を上げたが、考えてみれば皆既日食中に太陽が雲で隠れるなんてとんでもない確率
である。しかも、雲に隠されるのがあと1分早かったら皆既日食が見れなかったわけで、部分日食中にも何度も
太陽が雲に隠されていたことを考えると、見事に皆既日食をの瞬間を見れたことは本当に運が良かった。
 あとで聞いた話だと、付近の山に登っていた人はちょうど皆既日食の際に太陽が雲に隠されて見えなかった
らしい。

 本当に紙一重の出来事。太陽と地球と月と雲、自然がもたらしてくれた一大スペクタクルに深く感謝し、人間は
この自然現象と比較してなんとちっぽけな存在であるかを強く感じた。そして、地球がが宇宙の一員であるという
ことをおそらく生まれて始めて実感できた瞬間だった。

 同じ感動を共有したパーティーピープルたちと抱き合い、喜びを分かち合う。そして再び音が鳴り始める。
 誰もが幸せそうで、本当にいい雰囲気が会場全体を包んでいた。


 こうして、僕の旅の最初の目的は果たされ、KHAN ALTAYは終わった・・

 ・・・と思っていたが、実は日食を見ただけがゴールではなかったのである。。



     ↑皆既日食。下から雲が・・・



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