+ ロシアA 皆既日食・パーティー編 (2008.07.26-31)
 KHAN ALTAYベースキャンプでの夜は、寒くてあまり寝れなかった。会場での生活が非常に不安である。

 朝、準備をしてソ連製ジープで会場まで向かう。乗り心地はハイエースの100倍悪い上に、道は未舗装の
山道。しかし景色は最高で、アルタイの雄大な山々を見ながら川に沿って走ること1時間半、ここで車はストップ。
車道がないのでここから約7kmは歩くしかない。バックパックは別便に預けて会場まで運ばれているので、それ
ほどしんどくはなかったが、モモまで水に浸かる急流を渡ったりハードな登りが続いたり、とんでもない奥地に
向かっていることは間違いなかった。

 2時間弱ほど歩き、山あいからようやく会場が姿を現した!ついに到着したぞ!日本を出てから2週間、この
パーティーのために中国もモンゴルもシベリアもすっとばして、それでも陸路でくるとこんだけ時間かかっただけ
に、感慨もひとしおである。
 しかし感慨に浸る間もなく、キャンプ場所を確保しなければならない。アントンたちの友達、アンドリュー・イバン・
ターニャも合流し、いい場所をさがすが、既にいい場所は全て埋まっている。
 仕方なく、景色とメインフロアへの近さを優先して影の無い場所を選んだが、昼間はとんでもなく暑くて、とても
テント付近に留まっていられなかった。影の大切さが身にしみて分かったよ、こうやって失敗を繰り返して人間
は学んでいくわけやね。

 それにしても・・・

 
絶景すぎる!

 360度山に囲まれ、どこからでも山が見える。会場に沿って流れる川は白く濁っているのでキレイに見えない
が、濁っているのは雪解け水だからであって、汚いわけではないらしい。実際川の水を飲んで10日間暮らした
し。
 空は雲ひとつ無い青空で、夜になると満点の星空で埋め尽くされる。辺りには野良牛がウロウロし、馬に乗った
現地人がたまに側を駆けて行く。全く文句のつけようのないロケーションである。



 これがキャンプ前からの風景。朝起きてテントを出たらこれですもの、たまんないっす。

 2日目の夜から音が鳴り始めた。しかし日本のパーティーの常識とは違って、人々は日が沈む21時過ぎから
集まり始め、夜中の12時頃にピークを迎え、夜中には徐々に人が減り、朝方になるとほとんど残っていないと
いう状況である。朝日が昇ってからフロアにいるのは30人にも満たない日ばかりだった。
 このパーティーは見たところロシア人が9割5分を占めるので、これがロシアのパーティーの常識なのかも
しれない。そもそも踊る人自体が少なく、会場には目測で2000人くらい入っているんじゃないかと思われるが、
メインフロアにいたのは最大の時でも300人くらい(日食の時を除く)じゃないかな。しかも踊ってるのはそのうち
半分くらい。

 3日目、楽しみにしていたOCELOT(U.S.A)が回すというので、夜中の2時くらいにメインフロアへ。すると
OCELOTの前に、WOODPEKKER(Turkey)が回しており、これがもうグニャングニャンに曲がった音を出していて、
すっかり脳みそをかき回されてしまった。踊るというよりは地震発生装置の上に何とか立っているような感じ。
 そしてすっかりやられたところで、OCELOTに交代。こちらは音自体は単調で、思ったほど変態的でもなく、
正直イマイチだったのだが、それでもようやくこの場に立って踊っているという事実、そして奇麗すぎる月と星と
山全体をスクリーンにして展開されるレーザーのデコレーションを背景に踊る多くのパーティーピープルは一生
忘れることのできない光景になるだろう。今もしっかりと脳裏に焼きついている。

 ちなみにこの時、僕は
キリスト様にお会いした。

 正確にいうと、一本ドレッドの青い布を身に纏ったイスラエル人がフロア中をウロウロ歩いており、完全に僕の
想像するキリスト像と一致したんです。
 しかも不思議なことに、その場にいたヤスさんやヨコさんに聞くと、「おれもキリスト見た、あの一本ドレッドの奴
でしょ?」と、完全に意見が一致する。彼はもしかしたら本当にキリスト様?
 とりあえずさすがにこんな辺境の地まで日食を追いかけてくる連中なだけあって、かなり濃い人たちが集まって
いた。

 日々の生活はとてもシンプルである。朝起きるとまずは川へ水浴び&歯磨き&水汲みに行く。そしてブランチ
の準備。僕はかなりこのキャンプ生活をなめており、自炊道具など一切持ってなかったのだが、アントンたちが
鍋や食器をはじめ各種調味料、食料、さらにガスバーナーまで大量に持参しており、毎日何かしら自炊をしてい
た。
 彼らはキャンプ生活に慣れており、少ない材料と乏しい道具で素晴らしい料理を作った。僕らももちろん買って
いた缶詰や野菜を提供したが、彼らの道具が無かったら果てしなく乏しい食料で過ごすことになっただろう。本当
に助かった。

 昼は暑すぎて耐えられないので、川に泳ぎに行く。日によっては1日2度も3度も川に泳ぎに行った。川は恐ろ
しく冷たく、このクソ暑い日中でさえ10分と入っていられない。でもクールダウンには十分で、飲み水としても
最高だしビールも冷やせるし、洗濯もシャワーも全てこの川。まさに命の水であった。
 夕方になって涼しくなるとキャンプサイトをうろうろしたり、ちょっと会場を離れて山に登ってみたり、他の日本人
のいるところへ遊びに行ったりチルアウトステージにいったり。そしてまたテントに戻り、夕飯を作って食べ、
暗くなると薪を集めて焚き火をし、アントンたちとたわいもない話で盛り上がる。
 そして夜中になると音が上がってきたところでメインフロアに行って踊るか、疲れて寝るかのどっちか。特に何を
しているわけでもなく普通に生活しているだけなのだが、毎日が満たされていて本当に幸せな日々だった。

 こういうシンプルでワイルドな生活をしていると、本当に日本では無駄なものに囲まれた生活をしていたなぁ、
と実感する。ここではとにかく水と食料の確保が大事で、最小限の水と砂で食器を洗ったり、最後の一粒まで
ご飯を食らい、発生したゴミは皿代わりにしたり焚き火の燃料にしたり、普通には捨てない。

 そして、ちょっとした嗜好品が極上の贅沢品になる。パーティー会場にはいくつか売店があるのだが、陸の
孤島と化したこの場所では競合他社などいないため、完全に足元を見た価格を提示してくる。
 それでも新物資がトラックで運ばれてくると思わず品定めし、いくつか買ってしまう。ここではポテトチップスが
ビーフステーキ、コカコーラが伊勢エビ、そして桃の缶詰は特上寿司くらいの価値を発揮した。普段日本では
こういう嗜好品ほとんど食べんけど、こういう時に食べると嗜好品のありがたみと贅沢さ加減がよく分かる。
高いし。

 また、アントンたちを筆頭にパーティーピープルたちの寛容さは本当に感心させられる。皆が皆に対して惜しみ
なく自分たちのものを分け与え、支え合って助け合って生活する。今でも田舎に行けばこういう村がたくさんある
のだろうか、日本の都会生活に慣れきった僕としては人々の温かさに感動するばかり。旅でもパーティーでも、
本当に一人では何もできないな、と強く感じる。
 特に日食パーティーでは、誰もが「日食を見る」という同じ目的を持って集まっている。この一体感ははっきり
言って最強だ、普通のパーティーとは比較にならないパワーを感じ、何度だって鳥肌が立ってしまう。

 イルクーツクまでの電車であったクラトさん&サチさん夫婦にも無事会うことができた。彼らは同じく日本人の
テキサスさん&サチコさんカップルと共に、ベストポジションにテントを構えていた。ホントは一般人はキャンプ
禁止なのに、知らずに立てたところオッケーだったようだ。
 川も近いし日陰もふんだんにあるので、途中から暑い昼間はよくチルアウトのためお邪魔しにいった。
 彼らはさすがにパーティー慣れしており、自炊道具もコンパクトで使えるものを持っていて、サラダやロイヤル
ミルクティーなど超贅沢品を何度もご馳走になってしまった。なんせ昼間はヒマなのでいろいろな話を聞き、
ゴア行きてーとかベルギーも面白そうやなーとか、更に行きたい場所を5ヶ所ほど増やしつつ、なかなか重い
腰を上げられずに夕方までダラダラ過ごす。正にアルタイのオアシスであった。

 さらに大阪から来ていたイマさんを含め、純粋にパーティーに参加しに来ていた日本人はおそらく約10名。
アーティストであるヒデヨさん、エクリプスハンターやマスコミ関係で前日に着いた日本人たちを含めると20人
ほどだったかな。

 そして、何と日本から誰もが知っているであろう大物カップル、沢尻エリカ&高城剛が来ていたらしい。
 いや、らしいっていうか、実際隣を通りかかったんやけど、僕二人とも顔知らんのよね。したがって、事前に
「沢尻エリカが来てるらしいよ」という話を聞いてなければ普通に気づかんかったと思う。
 ていうか、むしろ何も知らないフリして、通りかかったときに「こんにちは、日本人ですか?うわーまた増えた
なぁ、よろしくです(握手を求める)!日本からどういうルートで来たんですか?お名前は・・・」ていう感じで接触
していれば、どういう反応が返ってくるのかすごく楽しみだったなぁ、と後悔している。もしも名前を聞いて
「沢尻エリカです」と答えられたら、「僕シンヤです、よろしく!」と
何も知らないフリを突き通す
準備はできていた。


 そうこうしてまったりと過ごしているうちに、だんだんと日食当日が近づいてきたのである。



    ↑命の川で泳ぐアントン



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