+ ネパール@ Everest Trekking 前篇 (2008.10.20-26)
 チベットとの国境からカトマンズまで、ラサからランクルで共にやってきたチベタン2人とおんぼろカローラを
シェアし、数時間かけてようやくカトマンズへやってきた。約4年ぶりのカトマンズ、昔の記憶では雨季のしっとり
としたイメージだったが、乾季のこの時は大変な空気の悪さ。標高が高く空気が澄んだチベットから来たせいもある
だろうが、1時間と歩いただけで目と喉をやられるほど空気が汚染されているように感じた。

 また、国境を越えてもほとんど経度は変わらないのに、時計を2時間15分(中途半端!)戻さないといけない。
この時差のような、東アジア世界から南アジア世界への劇的な変化を、人に、街中に、いたるところに感じることが
できる。中国的「整然・無関心」から、インド的「カオス・関心過多」へ。両方の国に行ったことがある方なら分かる
と思うが、この両極端な国の性質、その変化を劇的に感じることができるこの国境越えは非常に面白い。

 さて、カトマンズ。空気が悪いなりに4年前も行った近所の見所をいくつか回ったりもしたが、この際ガイドブック
に載っているような場所の説明は置いといて、ツウのカトマンズの楽しみ方をお教えしよう。

 カトマンズの楽しみと言えば、何といっても「食」である。

 とりあえず着いたその日から日本食屋「桃太郎」へ。食の楽園・カトマンズでは、本格的な各国料理が比較的安価
で食べられる。もちろんローカル料理と比べると格段に高いのだが、旅行者が集まる「タメル地区」においては、
ネパール料理ですらそれなりに高いところが多いため、タメルで食事するならばいろいろな料理を試してみるのは
当然の流れだろう。なにせ、質が高い。まず初日に食した桃太郎のカツ丼、それはまぎれもなく日本の味のカツ丼で、
いかに中国で中華料理三昧の生活を送っていようとも、故郷の味はやはり別格である。まさに感涙モノだった。
 他にも韓国料理、タイ料理、イタリア料理、イスラエル料理、インド料理、無難な西洋料理など、なんでもござれ。
毎食豪華にうまいもんをたらふく食っては、オシャレなものが安く売っている店をひやかし、宿に戻ってまったりと
過ごす。これが、(人によっては)最も有意義なカトマンズの過ごし方である。・・・うーん、あまり大げさに書くと
マジでどうしようもなく怠惰な生活送ってるように思われるな・・・ネタって分かるよね、みんな?

 チベットのラストデイズが少々ハードだったこともあり、勝手知ったる享楽の町・カトマンズでこうして思う存分
享楽的な日々を3日ほど送っていると、偶然にもチベットで一緒にB級クラブ「BABILA」に行ったロッキーさんに再会
した。再会を祝し、本格的イタリアンピッツァとパスタが食べられるレストラン「FIRE&ICE」にて祝杯。
 その時ロッキーさんから「おれ明日からエベレストトレッキング行くよ、ヒマだったら一緒に行こうよ」との誘いを
受けた。
 もともとトレッキングをしてみたかった僕だが、何となくタイミングが掴めずいつにしようかと考えていたところだっ
た。何しろこの享楽的カトマンズ生活から脱し、確実に苦行と分かっているトレッキングに行くのは天国行きを辞退して
地獄行きに立候補するようなもんだ。でもまてよ、享楽的な生活はトレッキングから帰ってきてからでもできるよな。む
しろネパールに来たばかりのこの時に誘われるってことは、今行っとけってことでしょ。しかも相棒は、残念ながら美女
ではないものの、日本でもかなりアウトドア派なロッキーさん。頼もしいし話も合う、ガイド・ポーターなしでもお互い
問題なさそうだ。

 こうして非常に後ろ向きかつ人任せな理由で、トレッキングに便乗することにした。・・・うーん、本当に後ろ向き
な人間だと思われそう・・・
 ただしこのトレッキングは普通は起点となる町ルクラまで早朝の飛行機で飛び、そこから歩き始める。翌日早朝の
チケットを持っているロッキーさんは明日出発し、僕は明日チケットを買うのはもちろんのこと、全ての準備を整えて
明後日の早朝ルクラに飛び、かつ一日早いロッキーさんに追いつかなければならない。トレッキングは全く素人な
僕だったが、素人なだけに勢いだけで「まーいけるやろ」と判断し、急遽、世界最高峰エベレストを間近に見ること
のできるカラパタールを目指すことになった。

 翌日、速攻で次の日のルクラ行きチケットと帰りのオープンチケットを買い、金を下ろしたりフリースを買うなどの
準備を整えた。ちなみにダウンジャケットはナシ、登山スティックもナシ、ズボンはカシュガルで1,000円くらい
で買ったの、靴はPUMAのスニーカーである。ポーターをつけないので、荷物をなるべく軽くしようと結局ほとんど買い
物はしなかった。

 10月25日、いよいよトレッキングへ出発。早朝タクシーで空港まで行くと、何も聞かれずに国際線に連れて行か
れ、国内線の空港までアセって走るというハプニングがあったが、予定通り飛行機に乗って出発。飛行機は12人乗り
くらいの小さなセスナ機で、全員が乗り込むと1分ほどで離陸し、壮大なヒマラヤの風景を惜しげもなく晒しつつ、
ほんの20分くらいで下降。小さな飛行機だから、下降や旋回の時はモロにGを感じてアセる。そして着陸の滑走路が
見えてくると、思わず目を疑った。山の斜面に窮屈そうに作られた1本の滑走路。その山の斜面に突っ込んでいくかの
ように飛行機はグングンと高度を下げ、短い滑走路いっぱいまで使って鮮やかに着陸してみせた。寿命が縮むわ。

 ルクラの町沿いに早速トレッキング開始。まだ時刻は朝7時、ルクラの時点で既に標高は2,700mほどあるが、
そこはつい数日前まで標高4,000m越えのチベットにいたので、全く息苦しさは感じない。途中見晴らしのよい
場所でクッキーだけの簡単な朝食を取る。
 いやーまだまだチョロいわー、ずっと上りっぱなしでもないしねー、と鼻歌まじりに進みながら、すでにチラチラと
姿を見せている雪山と雨季の後で生い茂った緑のコントラスト、さらに道端にある大きなマニ車や石に彫られた
マントラなど道中の景色を十分に堪能し、バシバシと写真を撮る。

 そう、その小さな喫茶店の前でも、大きな荷物を背中に乗せて力強く運んでいくヤク君たちの雄姿をバシバシと
写真に収めていたんだ、そうしてちょっと疲れた僕は、僕の愛らしいキャノンのデジタル一眼レフカメラ
「CANON EOS KISS DIGITAL N」を隣の岩の上に置き、少しばかり休憩していたんだ。

 確かに、完全に僕の不注意だ。でも、でもね、ほんの10分だけだったんだ。


 僕がその岩にカメラを置き忘れたまま先に進んだのは。


・・・そうして10分後、僕は猛ダッシュでヤク君たちを払いのけながら小さな喫茶店の前まで戻り、岩の上を確認
したが、全く読者様の想像通り、カメラはもう無かった。

 ああ、この絶望感。分かっている、分かっているんだ皆まで言うな、写真なんて所詮は思い出を移す紙に過ぎない
んだ、この目で見、この体で体験することが大事なんだよ、分かってるんだそんなことは。

 でも、だって、あったほうがいいやん。カメラ。絶対あったほうがいいって。しかもけっこういいカメラ、いい
写真が撮れる場所よ?

 はぁ。立ち直れない。いや、立ち直らなければ、とりあえず、どうしよう?とりあえず進むしかないよな。ああ、
まだ旅に出て3ヶ月半で、持ってきたカメラを2つともなくすなんて、ダサすぎて誰にも言えない(今はもうネタに
するしかないと思えるが、あくまで当時の気持ちね)・・・
 物への執着にまみれまくった負のオーラを背負った僕は、触れるもの皆傷つける勢いで坂道を駆け上がっていっ た。

 しばらく歩き、山の中にぽつんと1件レストランがあった。西洋人の団体がおいしそうに朝食を食べている。
時計を見るとまだ10時すぎ、といっても朝7時からクッキーだけでトレッキング中の僕は、とりあえず
何か食べて落ち着こうと試みた。
 そこでマズい具なしヌードルスープを食いながら、自分に言い聞かせる。
 確かにカメラをなくしたのは残念で仕方がない。でも、その気持ちを引きずってこのトレッキングを台無しに
していいのか?せっかくのトレッキング、せっかくのネパール、せっかくの世界旅行、いやせっかくの人生だ。
楽しんだほうがいいやろ?幸いカメラのお金は保険に加入しているので出るだろう。そして写真は、ロッキー
さんがカメラを持っていた。ロッキーさんの写真をもらえば、少なくとも僕が見た景色の思い出は残る。
 そうだ、そのためにも早くロッキーさんに追いつかねば。思い出した、今日は初日、多くの人が体調管理と
高度順応を考えて2日がかりで刻むところを、僕は1日で歩いてロッキーさんに追いつく計画なのだ。

 歩こう。とにかく、前へ進もう。

 マズいヌードルスープを食べ終える頃には、なんとか前向きな気持ちになっていた。こんなに早く気持ちの
切り替えができるのは、きっと旅がもたらしている良い影響なんじゃないかな。


 再び歩き始め、上り下りを繰り返し1時間ほど歩くと、国立公園の入り口に辿り着いた。ここでトレッキング
客は1,000RS払ってパーミッションを取らなければならない。

 「あれー、4n8君!早いねー」

 列に並んでいると、聞き覚えのある声が。なんと、ロッキーさんに追いついた!今日は目的地のナムチェ
バザールで追いつけたらいいかなーと思っていたので、なんとも嬉しい早めの再会。
 そこで少し休憩しながら、トレッキングを始めてわずか3時間でカメラをなくした事件の顛末をとりあえず
聞いてもらい、心が晴れる。自分でも驚くほど、心の切り替えは早かった。ここからはエベレストチーム
(男2人)、ストイックに山を登っていこうではないか。ロッキーさん、写真は任せました!

 ここからしばらくは登り下りが続き、途中から一気に400mの登り。しんどい、汗が吹き出る。この間は
草木に視界を遮られ、景色もイマイチ。朝7時からずっと歩きっぱなしだ。こんなに本格的に標高の高いところ
を長時間歩くなんて、いやートレッキングってきついんやね(今更)。

 そんな時、なにやら道の途中に人が集まっているところがある。近寄ってみると、お、山が遥か彼方に見え
る。でもなんでこんなに人だかりが?その辺のポーターに聞いてみると、

 ポーター氏:「エベレスト!」

 マジで!?初日にしてエベレスト見えるんや。へーあれがエベレストね、まぁここから見ても小さいし他の山
との違いは分からんけど・・・とりあえず写真を撮っといて、ここで少し休憩、おやつを食べてエネルギー補給
し、最後の力を振り絞って登り切り、ナムチェバザールに着いたのは昼の15時前だった。

 ナムチェバザールはこの地域で一番大きな町だが、そうは言っても20分で回れるような町。もちろん周りは
雪山だらけ、絶景である。しかし朝から歩き続けてきた僕は、夕飯に超うまいダルバートとビールを堪能して
すぐに、どこも歩き回ることなく倒れるように就寝した。

 10月26日、早起きしてコーヒーとビスケットを食し、町はずれにある警察署へ。前日なくしたカメラに
ついてのポリスレポートを作成してもらうため。思うに、あれは「紛失」というよりは「盗難」だと思うんで
すよ、10分しか目を離してないのに無くなったってことは、確実に誰かが持っていったってことでしょ?
 したがってそのように正直にポリスに言ってレポートを作成してもらい、カトマンズに帰ったら保険会社に
保険を請求してみよう。そしてあとは保険会社様の判断に委ねようではないか。
 ポリスレポートは多少時間がかかりそうなので、またナムチェに戻ってきたときに受け取ることに。

 9時半出発、いきなり少し急な登りがあるが、後はなだらかな道をエベレスト・ヌプツェ・アマダブラムを
眺めながら歩ける素晴らしいコース。途中、エベレストの眺望が抜群なレストランで青空ランチを取る。今日
もやっぱりダルバート、カトマンズのローカル食堂なら50ルピー以下で食べれるのにここでは山価格の
250ルピー也。そう、このトレッキングルートでは「山価格」が横行しており、全てが高い。もちろん車が
入ってこれない場所なので高いのは仕方がないんやけども。
 さすが楽園ネパール、この標高でパスタやピザなんかも売ってるんだが、300ルピー以上払って小さな
皿に盛られたパスタを食うのは、貧乏パッカーの懐に優しくない。そこで、結局毎回、おかわりもできる
コストパフォーマンスの高いダルバートを頼むことになる。

 昼食のあとはずっと下りが続いた。おいおい、結局登ることになるのは分かってるんやからあんまり下るの
はヤメテよ、との願いは通じず、谷底と思われる場所まで下りきり、そこから一気に600mの登り。
 これはキツイ、ゼェゼェ言いながらも無理矢理足を前へ前へ向ける。しかし、周りの人たちはみなのんびり
と息すら切らすことなく登っている。みんな笑顔、あいさつ、ほんわか。それを見てると急に力が抜け、以後
は無理に進もうとせず、一歩一歩を楽しみながらゆっくりと登ることができた。

 その登りを2時間以内で登りきると、ついに今日の目的地タンボチェ着。すばらしい景色!360度すべて
山に囲まれた場所にポツンポツンとロッジが立ち並ぶ。真ん中が広場になっており、そこでスーパーで買った
ビールでカンパイ!高度的にも予算的にも、たぶんここがビール飲める最後の地点だろう。既に標高は
約4,000m、ビール1本200ルピー(約260円)!

 夕方になって雲が出てきたが、日の入りギリギリまでエベレストだけがその雄姿を見せていた。

 待ってろエベレスト、数日中にもっと近くまで行ってやる!



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