+ 中国D 遥かなる西チベット@ (2008.09.20〜22)
 いよいよ西チベットに向かう挑戦権を得たチベットチーム(男2人)、早速西チベットルートの玄関口となる町・
アーバンへ向かう。

 その前に、なぜ僕が西チベットにこんなにこだわるかを書いておくべきだろう。


 西チベットのメインは何といってもカイラス山である。この山はチベット仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、ボン教の
4つの宗教の聖地であり、その神聖性から何人たりとも登頂することを許されていないという山である。まー本当に
誰も登ったことがないかどうかは疑わしいが、これだけ多くの宗教の聖地であるところは他にはイスラエルの
エルサレムくらししか思い浮かばない。まさに聖地中の聖地なのである。
 登頂は許されていないが、熱心な教徒たちは何日もかけてこの山にやってきて、山の周りを歩いて1周する。
チベット仏教ではこのような聖地や寺の周りを歩くことを「コルラ」と言い、カイラス山をコルラすることはチベット
教徒にとって最高の喜びであるらしい。1周するのに普通は2泊3日、ゆっくり歩いて3泊4日、チベタンは1泊2日
で周る。なにせ標高はオール4,000m越え、最高地点は5,600mを越えるという過酷な巡礼路である。この山
を13周コルラすると全ての煩悩が消えると言われているが、おそらく僕が13周しようと思っても2周目くらいから
「コーラ飲みてー」とか
煩悩まみれのことを考えるのだろう。

 西チベットには他にもカイラス山と並んで3大聖地と呼ばれるティルタプリ温泉とマナサロワール湖、はるか昔
に栄えた王国「グゲ王国」の遺跡など見所はたっぷり。ただ、僕が西チベットに並々ならぬ思いを寄せているのは
もともとそのような見所を知っていたからではない。

 西チベット、それはおそらく世界一人口密度の低い地域。人も動物も植物も、あらゆる生物が生活することが
困難なほど厳しい自然。それはすなわち、最も人間の手によって開発されていない地域なのではないだろうか。
写真で見るかぎり、今まで見たこともないような光景が延々と続く。果てしない荒野、そしてカイラス山の雄姿。
まずはこの「地球最後の秘境」とも言われる土地を見てみたかったのである。その後、この土地がいかに宗教的
に神聖なところかを知り、思いはますます深まっていった。


 さて、話は戻って9月20日。いつものパオズ屋で最後になるであろうパオズを食い、おじさんに別れを告げてから
2週間過ごしたカシュガルを後にする。まずはバスでイエチョンというところまで約5時間、それから乗り換えて20分
ほどでアーバンに着く。アーバンは、東のホータン方面へ向かう道と南のチベット方面へ向かう道に別れる交通の
要所だが、そもそも観光客よりは商用のトラックや軍用車が通ることが多く、完全にそれらのために作られただけの
人工的な町である。見所は何もない。なるべく早く交通手段を見つけて西チベット最大(というか唯一)の都市・アリ
へ向かいたい。

 あわよくば1泊もせずにアリに行こうと思っていた僕らはひとまず荷物を持ってバスが出るらしいところを探す。
するとその途中で日本人3人に会い、「イエチョンでパーミッション取って西チベットに行こう!」と言われる。
 イエチョンでパーミッションが取れるという話はこれまで全く聞いたことがなかった。というか、パーミッションが取れ
ないからこそみんなバスやヒッチハイクでふっかけられたり検問で見つからないかびくびくしたりしながら苦労して
アリまで行って、そこで公安に出頭して罰金払ってパーミッションをもらうというのが定番の方法である。イエチョン
でパーミッションもらえるなら堂々と西チベットに行けるではないか!
 しかし、まーそんなうまい話があるとはにわかに信じがたいので、とりあえずバスを探してみた。すると明日発つ
というバスがあった。運ちゃんがいなかったので交渉できなかったが、近くにいた中国人パッカー曰く「外国人は
まず乗れないと思うよ」とのこと。そーかい、やっぱりかい。まーとりあえず今日のところはあきらめて暗くなる前に
ホテル探すかってことで、3人が泊まるといっていたホテルにいったが満室。しゃあないので近くの招待所(安宿)
に投宿した。宿のおっちゃんは英語全くダメなうえにノックもせず部屋に入ってきて中国語でわけのわからんこと
を話しかけてきて一人満足して帰るという、日本にいたら完全に通報されてもおかしくないオーナーやけど、どう
やら根はいい人である。

 翌日、見つけておいたアーバンの公安に行って聞き込み開始。すると親切な公安のおっちゃんが、パーミッション
を取れるという場所まで車で送ってくれた。実はアーバンも外国人には非開放の地区であり(中国政府によって
外国人の観光が制限されている場所は中国に結構あるんです)、滞在することは許されていないはずなのに、
昨日の宿のおっちゃんといい公安といい、このユルさ。これは期待できるぞ!
 パーミッション発給できるという場所にて、前日会った日本人3人組にまた遭遇。うち2人は中国に留学していた
そうで、中国語ペラペラ!これは期待できる!てことで彼らに全てを託して僕らはお座りして待つ。「船頭多くして
船山に登る」という諺があるように、交渉する人は少数がいいのである。決して
サボっている訳ではない

 ところがやはりそう簡単にコトは進まない。「ココは中国人専用や、外国人はイエチョンの公安外事課に行けい」
とのことで、あっさり撃沈。しかし中国語使いの2人が「とりあえず外事課行って見らぁ」と、頼もしく去っていった。
そして待つこと数十分、彼らはガッツポーズを決めて帰ってきた。
 ま、まさか!行けるんすか、僕たち!?

 「閉まってました。そういえば今日って日曜やん」

 ・・・あぼーん。そうか、今日は日曜か。超基本的なことを忘れていた。
 こうして、長期旅行者特有の「
曜日の感覚がない病」のせいで、もう1泊が決定した。明日再度挑戦する
ということで、3人組とは翌朝公安局外事課で待ち合わせをし、とりあえず別れた。

 さて、別れたのはいいものの、まだ午前中。そして、アーバンは恐ろしくする事がない。あやうくヒマすぎて死ぬ
ところだが、今回は相棒のヒロノブ君がナイスアイテムを持っていた。それは・・・

 
ゲームボーイアドバンス(以下、よく登場するのでGBA。)

 彼はなぜかゲームボーイカラーも持っていたため、僕にアドバンスのほうを快く貸してくれた。そしてカセットはと
いうと、昔プレステで大好きだったゲーム、
ファイナルファンタジータクティクス(以下、よく登場
するのでFFT
。)

 ゲームボーイは初代しかやったことがないので、GBAの進化っぷりに驚き、ハマり、恐ろしいほど熱中した。
こんなにゲームに夢中になるのは小学校以来である。ヒロノブ君、本当にありがとう・・・。
 こうして「パーミッション待ち」という大義名分のもとに、ニート2人は思う存分怠惰な昼下がりを満喫し、夜は
そこいらの中華料理屋で中華に舌鼓を打つ。いやー中国はどんな辺境にいっても中華料理屋があり、しかも安
くてうまくてボリュームがあるので幸せである。自治区の文化を破壊するのは止めて欲しいが、中華料理屋だけ
はどうぞ進出してください、漢民族の皆さま。

 さぁ翌日。張り切って、「電気バイク荷台乗り合いタクシー」で公安局外事課へ。日本人3人組はまだ来ていな
かったので、どーせヒマだしと思い先に外事課に乗り込んで事情をカタコトの中国語で説明する。すると、なにやら
険しい表情の警官たち。超カタコトの英語を話せる警官いわく「今はこのルートは外国人には開放されていません。
ゴルムドか成都にいってパーミッションをもらいなさい。」とのこと。
 全く予想通りの回答だったのだが、それでもしばし粘っていると「あなたたちはどこに泊まっているの?」と聞かれ
「アーバンですが何か?」と答えた。

 あっ。

 アーバンて、非開放地区やわ。
泊まっちゃイカン

 するとなにやらえらそうな人が出てきて中国語でまくしたてられる。これは分からんフリをするしかない、ていうか
実際全く分からん。
 そうこうしていると、例の日本人3人組が到着。とりあえず中国語使いの彼らに改めて交渉してもらうことに。

 しかし、一蹴。

 「この外事課にはパーミッションを発行する権限なんてないの。そもそもこのルートは外国人は通れないの。
それからそこの2人組(僕らのこと)、アーバンに泊まってたらしいけど、ホテル名を教えてちょうだい!」

 だそうです。

 うーむマズい、このままではチベットに行くどころか、アーバンを追い出されてしまいそうだ。

 ホテル名を出しちゃうとオーナーのおっさんに迷惑が及ぶだろうから、覚えていないと言い張り、町の入り口付近
だと言って適当にごまかした。ところがどうやって見つけたのか、僕らが泊まったホテルのおっさんが連行されて
きたではないか!おっさんはなにか注意を受けている。ゴメンおっさん、僕らが迷惑かけて・・・でもさ、外国人を
泊めちゃいけない町だというのは
知ってのことだろう?毎年けっこうな数の外国人がこのルートで西チベット
に向かうんだから。
 そう、アーバンの宿は断固として外国人を泊めない所と、こっそり泊める所がある。おっさんも商売優先で僕らを
泊めたわけだが、彼の誤算は僕らがわざわざ公安に出頭して「アーバンに泊まりました」と供述したことだろう。
こんな馬鹿な外国人は見たことが無い」とでも言いたそうな目をしていたなぁ・・・へへ・・・

 さて、そんなこんなで完全にパーミッションは無理と分かり、3人組はとりあえず諦めてカシュガルに戻るとの
こと。僕らも今回はお咎めなしで釈放されたが、諦めるのはまだ早かろう。たった3日で諦めるほど僕の西チベット
への情熱はヤワじゃないよ?

 とりあえずヒロノブ君と2人、見つけたギョーザ専門店で焼きギョーザと麺を食った。中国で焼きギョーザは
ありそうでなかなかないので期待したのだが、これが期待を上回る劇的なウマさ。いやぁ、公安と一戦交えた後の
メシはうめぇわ。
 腹も満たされ、僕らは懲りもせずアーバンへ引き返した。泊めてくれる宿はまだいくらでもあらぁ。初日に見つけた
バス乗り場の側に投宿し、バスを偵察にいくと、バスがいる!しかも今日出発とのこと。早速側にいた運転手に
話しかける。

 僕:「運転手さん、このバスは今日アリに行くのかい?」

 運転手:「そうだよ、でも外国人は乗れないからね。」

 僕:「そんなこと言わずに、そこを何とか!」

 運転手:「ダーメ。通行証、持ってないでしょ。」

 僕:「あるよ、ほら(中国ビザを見せる)。」

 運転手:「これはビザでしょーが。ダメダメ、外国人は乗せれないから絶対!」

 ・・・うーむ、全く話にならん。どうも、彼のジェスチャーと中国語によると、公安の検問が相当厳しいらしく、もしも
外国人が乗っているのがバレると、罰金を課される上に免停になるらしい。
 それなら検問のときはトランクに隠れるから!一番奥にいれば大丈夫!と全てジェスチャーで懇願したが、お話
にならず、周りの中国人に笑われる始末。周りの中国人も「無理よ」と言っているので、どうもバスは本格的に無理
っぽい。

 ここでバスは諦め、すぐ近くの自動車整備工場の前に泊まっているチベットナンバーのトラックにあたってみる
ことに。とりあえず1台目、運ちゃんに聞いてみた。

 僕:「おっちゃん、これからアリ行く?」

 運ちゃん:「ああ、明日行くよ」

 僕:「まじで!あのー、お金払うから乗せてくれん?」

 運ちゃん:「ああ、いいよ。明日の8時にここ出るから。」


 ・・・
あっさりOK出ましたが

 料金は一人400元(約6,400円)で手を打つ。外国人料金の相場としてはまだ安い方だ。僕は小躍りしながら
ヒロノブ君に報告し、明日の出発を祝ってビールで乾杯した。
 つ、ついに出発できる!あとは検問を突破できるかどうかだけやな!僕らは期待に胸を膨らませながらウマイ
中華料理をたらふく食い、GBAでFFTをしながら秋の夜長を楽しんだ。



    ↑アリ行きの寝台バス。コレに乗りたかった。



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